Chihiro SHIMIZU  清水千弘 本文へジャンプ
The latest research: 最新の研究

私の研究活動

 

2018611日現在

 

 

研究領域は, 価格指数・経済統計関連(不動産価格指数),②環境・都市・地方財政,③マクロ経済・地域計量経済モデル,④住宅政策・住宅市場分析,⑤ビッグデータ解析に分類される。これらは,広い意味での経済測定とその応用分野として位置付けられる。

1の価格指数・経済統計の研究(研究業績一覧C-1)としては,とりわけ住宅・商業不動産の価値の測定を中心に研究を実施してきた。経済測定分野において,住宅や商業不動産は,個別性が強いために,その経済価値の時間的な変化を測定しようとした場合には,その品質調整が重要になる。その個別性は,他の財やサービスと比較して高いこと,さらには耐久性を有することから,経済測定の分野の中でも,最も測定が困難な対象として位置付けられてきた。また,資産価格の変動は,様々な経路を通じて経済システムに甚大な影響をもたらすことは,1990年代の日本のバブル,そして近年における国際金融危機からも明らかである。そのような中で,金融危機後の2009年にG20において住宅・不動産の統計整備が決定され,国連・OECD・世界銀行(IMF,BIS)ILOが協働して国際的な統計マニュアルの作成が行われ,それに基づき各国においては,その統計整備が進められてきた。清水は,2009年からその一連の国際プロジェクトに参加し,複数の研究業績を発表し,その成果がハンドブックに反映されただけでなく,日本はもちろんのこと,アイルランド,ポルトガル,キプロスをはじめとして多くの国の統計整備に関与している。

2の環境・都市・地方財政分野(研究業績一覧C-2)においては,古くは大気汚染,騒音,景観等の広い意味での環境価値の測定を実施してきたが,近年では環境配慮型建築物の経済価値に関する研究に集中している。低炭素社会に向けての国際的な取り組みは,近年において急速に進められている。そして,炭素の発生源としては,都市または建物といった源泉が最も大きな比重を持つことが知られている。そのような中で,環境建築物に関する認証制度が各国で進められるとともに,その認証を持つ環境配慮型建築物が経済的なプレミアムが存在するのかどうかといった議論が展開されている。また,このような政策は,2006年に国連環境計画・金融イニシアチブにおいて,当時のアナン事務総長の提案に基づき,環境・社会・カバナンス(EMG)基準が提唱され,不動産分野においても「責任不動産投資原則」がまとめられた。現在においては,日本を事例としての研究論文を報告するだけでなく,ケンブリッジ大学,MITとの国際研究プロジェクトを推進している。

3のマクロ経済・地域計量モデル(研究業績一覧C-3)においては,人口減少・高齢化に伴う国レベルでの影響,地域経済への影響とともに,国際的な資金の変動が都市の資産市場にどのような影響をもたらすのかという二つのテーマについて研究を進めてきた。人口減少や高齢化が不動産価格を押し下げるという仮説(Asset meltdown)に関する理論・実証的な証明は乏しく,新興国における過剰貯蓄が不動産市場における価格変動をもたらすという仮説(Global saving glut)についてもまた,説得的な実証分析は数少ない。そこで,このような問題を検証するために,20か国を超える国レベルでの長期パネルデータを用いた理論・計量モデルの構築と,わが国を対象とした都道府県レベル,市町村レベルのパネルデータを用いた地域計量モデルを構築し,国際比較研究を実施してきた。とりわけ中国,韓国との比較をシンガポール国立大学,KDI Schoolとの共同研究プロジェクトとして実施している。現段階での得られた結果を見ると,人口減少・高齢化がどの国,どの都道府県,どの市町村においても,等しく強い負の影響をもたらすことが推計されており,現行の社会システムを維持する限りにおいて,アセットメルトダウンが発生することが示唆される。このような中で,シンガポールにおいても同様の政策的な議論が展開された。その中では,シンガポールは国際的な都市であるために,人口減少・高齢化によって内需が減少したとしても,海外からの投資家が流入することで,アセットメルトダウンは発生しないという議論が出てきている。そのような議論を受けて開始したのが,国際的な資金フローが資産市場に与える影響に関する研究である。

近年の国際都市の不動産市場の変動は,国際的な資金フローの影響抜きでは説明することができない。わが国においても,国際的な資金が地方都市にまで流入し,爆買いとも揶揄されるように地域的なバブルをも生み出している可能性がある。このような市場の構造変化が起こる中で,北米,欧州,アジアの主要都市の不動産取引に関するマイクロデータを用いて,大きく二つの研究を進めてきた。第一が,Home Country Biasに関する研究であり,海外の不動産市場で外国人投資家になったときに,ローカルな投資家と比較して高掴みさせられていることを検証したものである。第二が,Nationality Biasに関する研究であり,海外の不動産市場で不動産に投資をしたとしても,同じ国に所属する売り手から購入した時には,高掴み効果が減少することをサーチモデルの枠組みで理論モデルを構築したうえで実証したものである。まだ,研究途上であり,改善すべき点は多く残されていると考えている。

4の住宅政策・住宅市場分析(研究業績一覧C-3)においては,研究領域3の人口減少・高齢化の理論・実証分析の応用として,空き家問題に焦点を当てて研究を進めている。社会構造が大きく変化しようとしているときに,どのような制度変更が必要となるのかといった政策判断をするためには,実証的な分析に基づき,議論が進められるべきである。さらには,どのような関係者の合意形成過程を経て,制度設計を進めていくべきかという点も科学的な設計が求められる。本研究では,空き家問題とどのように向き合い,どのような制度設計が必要なのかといった社会課題を考えるにあたり,中部地方,近畿地方の複数の地方都市における実験・フィールドワークを通じた検証を踏まえながら,研究を進めている。一連の研究成果は,様々な施策として実現してきているが,残された課題としては,縮退していく都市をどのように変革させていくのかということである。現在,都市の縮退と集積のさせ方に関する経済モデルの開発を行っており,その研究を通じてこのような問題を解明したいと考えている。

5のビッグデータ解析は,近年に注目される機械学習の応用も含めて,従来において解明が困難であった都市・住宅市場に関わる課題への応用の可能性を検討している。人工知能学会において,「不動産オーガナイズドセッション」を主導するなど,新しい研究領域の開拓を進めているところである。

 

研究領域ごとの代表的な研究業績を要約する。

 

 

 

研究領域Ⅰ-1. 住宅資本の測定方法

 

(1)   Diewert, W. E. and C. Shimizu (2016), “Hedonic Regression Models for Tokyo Condominium Sales,” Regional Science and Urban Economics, 60, 300-315.

 

住宅の資産価格は,建物価格と土地価格から構成される。そして,国民経済計算(SNA)においては,建物と土地は分離して計上される。しかし,一般に市場で観察が出来る住宅価格は,土地と建物が一体となって取引が行われる。そのような中で,経済測定の問題としては,市場で観察が出来る住価格を建物と土地にどの様に分離したら良いのかといった問題に直面する。

本論文は,そのような問題意識から,市場で観察可能な住宅価格を建物と土地に分離するための計量経済学的な接近法を提案したものである。具体的には,住宅の生産関数から出発した供給者サイドのヘドニックモデルを提案し,非線形推計法により建物と土地を分離した。

得られた結果を見ると,推計された建物価格指数は建設価格の動向とシンクロするように変化しており,価格変動は小さい。また,建物については経年劣化を伴うが,その減価償却率を明示的に取り入れたモデルを提案することで,その推計方法を開発した。

また,土地価格指数は,一般的に観察される住宅価格(建物を含む)指数よりも,価格上昇または下落の市場の転換点が早く,ボラティリティも大きいことがわかった。もし,住宅価格を経済政策の早期発見指標(Early warning signal)として利用しようとした場合には,土地価格指数を観察していくことが重要であることが示唆された。

ここで提案された推計方法は,国民経済計算の測定の改善に役立つだけでなく,ユーザーコストの推計やその他の経済統計の推計への応用も期待される。

また,同手法は,国際住宅価格指数ハンドブックの中で取り上げられると共に,欧州においてはその方法に基づく経済統計の改善が始まっている。その意味で,本研究成果は,学術的な貢献だけでなく,実際の経済測定分野において実用化されているといった意味で,学術面・社会面で大きな貢献ができたものと考えている。

 

関連研究

Diewert, W. E. and C. Shimizu (2015), Residential Property Price Indexes for Tokyo,” Macroeconomic Dynamics, 19(8),1659-1714.

Diewert, W. E. and C. Shimizu (2017), “Alternative Land Price Indexes for Commercial Properties in Tokyo,” Discussion Paper 17-07, Vancouver School of Economics, University of British Columbia.


 

(2)   Shimizu,C, K.G.Nishimura and T.Watanabe.(2010), “House Prices in Tokyo - A Comparison of Repeat-sales and Hedonic measures-,” Journal of Economics and Statistics, 230 (6), 792-813.

 

 住宅は,同質の財が存在しないという特性を持つことから,財・サービスの価格指数の推計方法として利用されているラスパイレス,パーシェ,フィッシャーなどによって提案された推計方法の適用ができない。そのような中で,何らかの手法で品質調整が求められるが,代表的な推計手法としては,ヘドニック価格法とともに,米国の代表的な住宅価格指数であるS&P ケース・シラー住宅価格指数の推計方法として採用されているリピートセールス価格法と呼ばれる手法が存在する。また,不動産鑑定価格を用いた指数などもある。複数の手法が提案されている中で,どの手法が好ましいのであろうか。本論文は,この問いにこたえるために,住宅価格に関するマイクロデータを用いて,ヘドニック価格法とリピートセールス価格法に代表される複数の推計手法を用いて価格指数の推計し,そのバイアスを測定することを試みたものである。

 得られた結果をみると,リピートセールス価格法で推計された指数は,ヘドニック法によって推計された指数と比較すると,ターニングポイントでラグを持つことが明らかになった。この原因としては,Diewert(2007)でも指摘されていたことであるが,リピートセールス価格法には,経年減価(Depreciation)バイアスの存在が予想される。リピートセールス法では,異なる時点で同じ住宅が繰り返し取引されたサンプルを用いて価格指数を推計しているが,その異なる取引の間で発生した経年減価の効果が無視されているという問題が指摘されていた。しかし,そのような問題を考慮したとしても,そのラグが残ることが分かった。さらに,リピートセールスサンプルだけでヘドニック価格法で価格指数を推計した際に,その転売回数が多くなるほどにラグが大きくなっていくことが確認された。このような結果から,リピートセールスサンプルそのものに,強いサンプル・セレクション・バイアスが存在していることが確認された。

この得られた結果は,国際的にも高く評価され,国際住宅価格指数ハンドブックにおいては,本論文を引用して「ヘドニック法」が最も推奨すべき推計手法であるということが明記されるなど,国際的な統計整備に高い貢献をすることができた。

 

関連研究

Wong.,SK, KW Chau, K. Karato, C.Shimizu (2017), “Separating the Age Effect from a Repeat Sales Index: Land and structure decomposition,” Journal of Real Estate Finance and Economics, published online.( https://doi.org/10.1007/s11146-017-9631-2)

Shimizu, C., H. Takatsuji, H. Ono and K. G. Nishimura (2010), “Structural and Temporal Changes in the Housing Market and Hedonic Housing Price Indices,” International Journal of Housing Markets and Analysis, 3(4), 351-368.




領域Ⅰ-2.非住宅資本(商業資本)の測定

 

(3)   Diewert, W. E. and C. Shimizu. (2017), “Alternative Approaches to Commercial Property Price Indexes for Tokyo”, Review of Income and Wealth, 63(3), 492-519.

 

国民経済計算の資本の測定においては,土地と建物を分離した価値の測定が要求されるとともに,とりわけ建物価値の測定については,減価償却率(depreciation rate)を正確に測定することが求められる。本研究は,経済測定の分野において,最も測定が困難な対象の一つであるといわれている商業不動産において,減価償却率の測定に焦点を当てるとともに,土地と建物を分離する計測手法を提案したものである。

建物の減価償却率,つまり経年減価を測定するためには,大きく3つの要素について考慮しなければならない。第一が,物理的・経済的な劣化である。建築物が建設されてから時間の経過とともに物理的な劣化が進むだけでなく,様々な新技術の登場によって陳腐化が進むためである。第二が,資本的支出の考慮である。建物の物理的劣化と経済的な陳腐化の進展を抑えるために,所有者は毎年または数年に一度に機能を回復させるために投資を行う。その投資の状況によって減価償却率は変化するために,その効果を制御したうえで測定しなければならない。第三が建物の寿命である。建物価値は,建物が取り壊されることでゼロとなる。そうすると,建物寿命によって一年単位で測定される減価償却率が変化することは容易に予想されることである。本研究では,これらの3つの要素を識別するための推計モデルの提案おこなった。得られた結果を見ると,日本の商業不動産の減価償却率は,欧米諸国と比較して,建物寿命が短いことが起因して,高い減価率を示していることが示された。

また,土地・建物を分離した指数を推計したうえで,フィッシャー型の品質調整済みの不動産価格指数の推計を行った。商業不動産市場では,市場価格データの入手が困難な場合が多いが,不動産証券化市場を通じて開示される不動産鑑定価格データを用いたとしても,その指数の推計が可能であることを示している。その成果は,2017年度に欧州統計委員会(EuroStat)が公表した「商業不動産価格指数のための作成指針」にも引用され,今後の国際的な統計整備において,大きく貢献できたものと考えている。

 

関連研究

Diewert, W. E., K. Fox and C. Shimizu (2016), “Commercial Property Price Indexes and the System of National Accounts,” Journal of Economic Surveys, 30(5), 913-943.

Shimizu, C., W. E. Diewert, K. G. Nishimura and T. Watanabe (2015) , “Estimating Quality Adjusted Commercial Property Price Indexes Using Japanese REIT ,” Journal of Property Research, 32(3), 217-239.




研究領域Ⅰ-3. 財・サービス(物価)の測定

 

(4)   Shimizu,C, K.G.Nishimura and T.Watanabe.(2010), “Residential Rents and Price Rigidity: Micro Structure and Macro Consequences,” Journal of Japanese and International Economy,Vol.24, pp282-299.

 

1980年代のわが国における資産バブル,そして,2000年代に入ってから米国で発生した住宅バブル期において,消費者物価指数のなかでも住宅家賃はほとんど変化していない。それでは,家賃の粘着性はどの程度存在し,どのような確率で価格改定が行われているのであろうか。この問題に答えるために,本研究では,不動産管理会社および不動産ポータルサイトを運営する会社に蓄積された住宅家賃に関する約70万件のデータを分析することで,実証的に明らかにすることを目的とした。

 分析の結果,次の結果を得た。第一に,一年間で家賃改定が発生しない確率は89%であり,米国の29%,ドイツの78%と比較して高い。この背景には,店子の入れ替えが少なく,そもそも家賃を変更する機会が限られているという日本の住宅市場に特有の事情がある。しかしそれ以上に重要なのは,店子の入れ替えや契約更新など家賃変更の機会が訪れても家賃を変更していないということであり,これが家賃の変更確率を大きく引き下げている。店子の入れ替え時において76%の住戸で以前と同じ家賃が適用されており,契約更新の際に97%の住戸で以前と同じ家賃が適用されている。

第二に,Caballero and Engel (2007)によって提案されたAdjustment hazard functionを用いて,家賃改定が時間依存か状態依存かを調べた結果,時間依存であることがわかった。状態依存とは,家賃が変更されるか否かが旧家賃の水準の望ましい水準からの乖離に依存するということであり,時間依存とは望ましい水準からの乖離に依存しないということである。つまり,家賃変更はカルボ型モデルで描写できることを意味している。

そこで,新規家賃のマクロ的な変動を示す家賃指数と現在の公表されている消費者物価指数における家賃指数を用いて,その粘着性の程度示すカルボパラメーターを推計したところ0.968であり,Caballero and Engel (2007)で提案されたマイクロデータを用いて推計された結果と整合的な結果を得ることができた。

このような結果を踏まえて,仮に消費者物価指数の推計において,家賃が市場の動きを適正に反映していたとした場合には,バブル期のインフレ率は1%程度高い水準になっていたことが明らかになった。

 

関連研究

Shimizu, C., S. Imai and E. Diewert (2015),“Housing Rent and Japanese CPI: Bias from Nominal Rigidity of Rents,” IRES Working Paper 2015-009, National University of Singapore.

 




研究領域Ⅱ. 環境価値の測定

 

(5)   Fuerst, F and C. Shimizu (2016), “The Rise of Eco-Labels in the Japanese Housing Market,” Journal of Japanese and International Economy, 39, 108-122.

 

低炭素社会の実現に向けて,不動産市場が果たすべき役割は小さくない。そのようななかで,環境配慮型建築物(以降,「グリーンビル」とする) に対する関心は高まりつつある。なかでも,グリーンビルには追加的経済価値(プレミア)が存在するのか,という問題を巡っては,多くの国において積極的な研究が推し進められている。

本研究は,米国のUC Barkley,オランダのマートリヒト大学,中国の精華大学,シンガポール国立大学の研究チームとの比較研究を目的として,東京における住宅の環境配慮型建築物(住宅)の経済価値の測定を目的とした。

比較研究を目的としていることから,他のチーム同様に,ヘドニック法を用いた環境配慮型建築物の経済プレミアムの有無を測定している。一般にヘドニック価格法を用いて環境価値を測定しようとした場合には,不動産の価格を特性ベクトルで分解し,環境質の価値を抽出する。しかし,Ekeland, Heckman and Nesheim, (2004), またはShimizu(2009)で指摘されているように,そのモデルに買い手の家計特性を考慮しない場合には,「過少定式化バイアス」を持つことが知られている。本研究では,ヘドニック関数の推計において,アンケート調査を通じて収集した家計の所得や世帯主の職業などを考慮したヘドニック関数の推計を行った。

また,高い環境性能などを加味した商品を市場に出していく場合には,供給者が他の商品と差別化してより高い価格を設定しなければ,市場価値のプレミアムは生まれない。そして,それを消費者が高い付け値を設定することで初めて市場で評価される。本研究では,最初の供給者の市場への提供価格と併せて,最終的な市場価格の両方を用いて,その構造を明らかにしている。

得られた結果を見ると,市場価格ベースで,環境配慮型建築物は1.7%のプレミアムを持つことが明らかになった。このプレミアムは米国や欧州と比較して必ずしも高い水準ではない。今後,わが国でグリーンビルプロジェクトを進めていくためには,市場メカニズムが機能するような制度設計が必要になってくるものと考えている。

 

関連研究

Yoshida, J., J.Onishi and C. Shimizu (2017), “Energy Efficiency and Green Building Markets in Japan,” A chapter in a book on Green Buildings edited by Ed Coulson, Yongsheng Wang, and Cliff Lipscomb.Chapter 7, 139-160.

Deng, Y., J. Onishi , C. Shimizu and S.Zheng (2018), “The Economic Value of Environmental Consideration in the Tokyo Office Market,”CSIS Discussion paper 155, The University of Tokyo..




研究領域Ⅲ
. 地域マクロ計量モデル

 

(6)   Tamai, Y., C. Shimizu and K. G. Nishimura. (2017), “Aging and Property Prices: Theory of a Very Long Run and Prediction on Japanese Municipalities in the 2040s”, Asian Economic Policy Review. 16(3), 48-74.

 

人口減少・高齢化は,需要ショックをもたらし,アセットメルトダウンが起こるのではないかといったことが示唆されている。住宅市場では,住宅需要が増大すれば,住宅供給が一定であれば価格を押し上げ,逆に需要が減少すれば,価格を押し下げるように作用する。しかし,住宅需要が増大したとしても,住宅供給が弾力的であれば,価格は大きく上昇することはない。

住宅需要の変化そのものに注目した代表的な研究としては,Mankiw and Weil (1989)が挙げられる。同研究では,米国の将来の住宅需要となる出生率と年齢階級別の住宅需要に着目し,住宅価格の将来予測を行っている。その結果として,推計時点から25年をかけて,実質ベースで米国の住宅価格が47%下落するといったことを予測している。わが国では,Ootake and Shintani (1996)Shimizu and Watanabe (2010)において,Mankiw and Weil (1989)によって提案された同様の指標で住宅需要を計算し,実証分析を行っている。その結果としては,人口要因は住宅ストックに対して影響を与えるものの,住宅(宅地)価格には影響を与えないことが示唆された。しかし,このような推計は,短期の均衡過程に注目したに過ぎない。人口減少や高齢化が,住宅の価格に対して,長期均衡の中では甚大な影響をもたらすことは,直感的にも理解できる。

本研究では,世代をまたがる長期均衡の中で,人々のライフサイクルと住宅需要との関係に焦点を当て,人口構成の変化と住宅市場との関係を分析した。また,25年間に及ぶ市町村を対象とした大規模パネルデータを用いて,実証モデルを構築した。

得られた結果を見ると,一人当たり所得が1%増加すると住宅価格は1.23%上昇することが示唆された。同様に,老齢人口依存比率が1% 増加すると住宅価格は0.62%下落し,総人口が1%増加すると住宅価格は0.41%上昇することがわかった。

このような結果を踏まえて,市町村ごとの2040年までの人口予測結果を用いてシミュレーションを行い,市町村別の長期予測を行った結果,半数以上の自治体で2010年比率で50%の水準以下になることが示された。

 

関連研究

Saita,Y., C.Shimizu and T.Watanabe(2016), “Aging and Real Estate Prices: Evidence from Japanese and US Regional Data,” International Journal of Housing Markets and Analysis, 9, 69-87.

Shimizu,C and T.Watanabe(2010), “Housing Bubble in Japan and the United States,” Public Policy Review,6(3), 431-472.




研究領域Ⅴ
. ビッグデータ解析・機械学習領域

 

(7)   Ohnishi, T., T. Mizuno, C. Shimizu and T. Watanabe (2012), “Power Laws in Real Estate Prices During Bubble Periods,” International Journal of Modern Physics, 16, 61-81.

 

不動産価格の急激な上昇と下落は,マクロ経済運営に対して甚大な影響をもたらしてきた。例えば,1980年代の日本,1990年代のスウェーデンは不動産バブルが契機として発生し,そして,米国の金融危機も,サブプライムローン問題から発生した。さらに,近年には,多くの新興国においても不動産価格が急激な上昇しており,金融機関の貸出残高は急速に増加してきている。そのため,政策担当者の不動産市場への関心はますます大きくなってきている。

そのような中で,不動産バブルの早期発見または予見は,政策当局にとってもっとも大きな関心事の一つである。この問題に答えるために,従来の先行研究においては,不動産価格のファンダメンタル価格を求めた上で,実際の価格とファンダメンタル価格との乖離によってバブルを特定化しようとする試みがなされてきた。ファンダメンタル価格は,住宅の将来収益の現在価値として決定される(Himmelberg et al. (2005))。しかし,この計算において,将来収益の予見と割引率の設定は極めて困難である。そこで,本研究では不動産価格の分布に着目し,不動産バブルの検出する方法を提案した。

具体的には,20世紀最大の不動産バブルといわれた東京圏の住宅市場に注目し,バブル期を含む1986年から2009年の価格分布を観察した。その結果,面積によって品質調整をした住宅価格は,バブル前またはバブル後においては,対数正規分布で近似できることが理解された。一方,いわゆるバブル期と呼ばれた時期においては,とりわけ価格帯の高いところに集中して高い価格上昇が発生していたために,対数正規分布から外れ,右に裾の大きな分布,つまりべき分布に近似されていくことがわかった。

このような知見は,不動産バブルは特定の地域・住宅で発生していたものであり,市場全体で平均的に発生しているわけではないということが理解された。そのために,価格分布を観察していくことで,住宅バブルの検出が可能であることがわかった。

 

関連研究

Sato, A, C. Shimizu, T. Mizuno, T. Ohnishi, T. Watanabe(2015), “Relationship between job opportunities and economic environments measured from data in internet job searching sites,”,19th International Conference on Knowledge-Based and Intelligent Information & Engineering Systems (KES2015), Marina Bay Sands Exp, Singapore (Invited session).

Fujimoto,S., T.Ohnishi, T.Mizuno, C. Shimizu and T.Watanabe (2016), Relationship  between population density and population movement in inhabitable lands, Evolutionary and Institutional Economics Review (64).published online.