両手仲介はなぜいけないのか?
(住宅新報 2009.9.15号)

麗澤大学経済学部准教授 清水千弘

BBCで,民主党が選挙で圧勝したことを知った。民主党のマニュフェストの中には,不動産仲介における「両手禁止」が入っていた。両手とは,売り手・買い手双方から相談を受け,売買契約を成立させることであるが,そのことがなぜいけないのかがきちんと整理されていないのではないか。
一般的には,市場の売買契約においては,「価格」を取り巻き「売り手」と「買い手」の利害が対立する。少しでも高い価格で売りたいとする「売り手」と,少しでも安い価格で買いたいとする「買い手」との間では,それぞれの利害が対立してしまう。両手禁止を唱える人は,とりわけ売り手の代理人として行動する傾向が強い仲介会社であれば,買い手が損失を被るために「けしからん」ということを言っていると思う。
経済学的には,この議論の前提には,取引におけるコストがゼロであり品質に対応した価格が成立していることを前提としている。しかし,実際の市場では,次の二つの条件が追加される。住宅に関する品質に関する問題と,時間を含む機会費用の問題である。
後者の問題は,不動産鑑定評価などでは取引事情としての「売り急ぎ」「買い進み」として調整されているが,売り手・買い手双方においては,売り手は一定の期間内で売却したいという方がほとんどであるし,買い手の中にも物件を探索するために費用が存在するため,ある程度の期間と労力の中で物件を見出したいと考えている。とりわけ住宅は,品質に応じて価格が大きく変化するだけでなく,まったく同じものは存在していないのであるから,単に「価格」だけを取り巻き利害が対立している,買い手が損失を受けているというような単純なことではない。つまり,「売り手」は,品質に対応した適正な価格で一定の期間内で売却したいと考えているわけであるし,「買い手」も品質に対応した適正な価格で一定の探索費用のなかで購入したいと考えている。このように整理してくると,品質に対応した価格と時間が重要であることが理解できるであろう。
それを両手仲介は阻害しているのであろうか。売買情報が流通していれば,マッチングできる確率が高いほうが,それぞれの消費者の利益は最大化されるはずである。そのようななかで,マッチングをさせるためのある主体を禁止してしまえば,その確率が低下し,むしろ消費者の利益を低下させてしまう可能性がある。とりわけわが国では不動産流通機構(レインズ)が存在し,売買情報は業者間できちんと流通しているはずである。その機能が当初の設計通り作用していれば,会員各社がその規則を徹底していれば,両手仲介を禁止しないほうが良いのである。
英国においては,政権が代わった際に,住宅の売買連鎖(チェーンとよばれているが)を円滑にするためには,どのようなことが必要であるのかといったことを徹底的に研究し,新しい制度構築に向けて議論が行われた。その中で生まれてきたのが,最近では日本でも紹介されるようになったがHIP(Home Information Pack)と呼ばれるものである。2002年にロンドンで政府の担当者と議論した時は,Seller’s Packと呼ばれていた。今,われわれが考えなければならないことは,高齢化社会を迎えるにあたり,いかに既存のストックを円滑に流通させていくのか,流通市場をどのように発達させていくべきかといったことである。
「両手禁止」などといった狭い議論をするのではなく,既存住宅市場の障害になっているもの何であるのか,その障害を取り除くためには,円滑に機能させるためには,どのような流通システムが必要なのかといったことを,徹底的に研究し,議論を行い,制度設計していくことが必要なのである。


麗澤大学経済学部 清水千弘

(2009年8月31日スコットランド グラスゴーにて)